環境保全団体WWFは、環境保全の支援者を増やすため、ネコ好きをターゲットにしたネコ科動物保護を訴える動画広告を制作。動画を活用して、科学的・理性的な環境保全団体であるというブランドイメージを保持しながら、支援を考えている方に対してエモーショナルに訴えかけることで、効率よく支援者を拡大することを実現した。

プロフィール

  • 河村翔河村翔(かわむら・しょう)1984年生まれ。2007年国際基督教大学卒業後、大和総研に入社。12年にWWFジャパンに入局し、これまで個人の支援者を増やすファンドレイジングに従事。チラシを用いたダイレクトマーケティングから、ウェブ広告などを活用したデジタルマーケティングまで支援者拡大のすべてを担当している。

WWFのミッションを遂行するためのファンドレイジング

------最初にWWFの活動について教えて下さい。

WWF(World Wide Fund for Nature)は、約100カ国で活動している世界規模の環境保全団体です。まずパンダのロゴマークをイメージされるという方も多いと思いますが、動物を保護するだけではなく、彼らを含めた生態系や、社会の消費のありかたを持続可能なものに変えていくといった、環境問題全般に取り組む団体です。WWFは、今から約55年前の1961年に誕生しました。そして、WWFジャパン(公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)は1971年に世界で16番目のWWFとして設立されています。

環境保全のミッションは時代の変遷によって、4段階の拡大を経ています。WWFが設立された当時は、個体数が減って絶滅の危機に瀕している動物を保護することがまず最初のミッションでした。

その後、密猟やスポーツハンティングが禁止される時代になっても、動物の減少は続きます。森に住んでいるトラを守ろうとしても、その森自体の減少という自然破壊についての問題が新たに発生していたからです。森に住めるトラの個体数というのは、自ずと限界があります。森が狭くなると、人間と衝突する機会も多くなり、殺されるトラも増えていく状況がありました。

これは森だけでなく、海、山、草原など、様々な環境で生活する動物にも同様に起こっていた問題です。このように、今度は動物の住んでいる環境や生態系そのものを守ることが重要となり、第二段階のミッションが加わりました。

第三段階のミッションは、社会の問題、特にサプライチェーンに関する点です。環境破壊において、一番のプレッシャーを与えているのは私たち人間です。人間が紙を作りたい、パームオイルを作りたい、プランテーションを作りたいといったことで森林を伐採してきた訳ですから、この消費構造を転換しなければ、自然破壊に歯止めはかけられません。

日本は、以前より経済力は落ちたと言っても、まだGDP世界3位の消費大国であり、世界規模で考えて自然環境に大きなプレッシャーを与える企業が数多く存在します。その資源調達方針を改善していくための活動が現在、WWFジャパンが最も重点的に行っている活動です。

そうこうしているうちに地球規模の環境問題である温暖化が大きな問題となり、WWFではネットワークの総力をあげてこの問題に取り組んでいます。これが、第四段階として、WWFが活動のミッションと据えているものになります。

環境保全団体には、トラやクジラといった特定の動物だけを守るといったミッションを持ったNPOもありますが、 WWFの場合は、全ての問題について包括的に活動を行っていくことがポリシーであり、4つのミッション全てをカバーする総合的な環境保全団体であると理解していただければと思います。

そして、その4つのミッションを統合するものとして「人と自然が調和して生きられる未来を目指して」という目標を掲げて活動しています。

WWF

------河村様の業務内容をお聞かせください。

私はサポーター事業室(当時)という部署に所属しており、英語で言うとファンドレイザー(Fundraiser)という役職を担当しています。ファンドレイザーとは、活動に必要な資金を調達することが主な役割です。WWFジャパンは民間のNPOで、約6割が個人からのご支援、約4割が法人からのご支援で活動資金を賄っています。私の担当はそのうち個人からのご支援を増やすという仕事になります。

------サポーター事業室のチーム体制は、どのような編成になっているのですか。

基本的に、支援者を増やすということに関する業務は、全て私の仕事になっています。個人の方からのご支援を増やす方法は、大きく分けて単発の寄付と、個人会員になってもらう2種類の方法があります。個人会員になっていただくほうが単発の寄付よりも長くご支援をいただけるので、プロモーションを行う場合は、個人会員を増やすことをより重視しています。

ファンドレイジングの方法としては、期間を設けて入会キャンペーンを実施することが多いですね。支援をしてくださる可能性がある方々に、訴求したい環境問題を設定して、ターゲティングを行った上で、使うべき広告ツールを選んでいます。

通常は、紙の広告と、Web広告を大きな2本柱と考えて企画段階からエグゼキューション(実施や管理)まで私一人で行っています。Web広告の中で、クリエイティブとしてLPを作ったり、バナー作ったりしていますが、その中で動画も作成しました。作成した動画はTrueViewを使って配信してみたり、gooddo*さんに出してみたり、Facebookに投稿してみたりといった形で活用をしていますね。基本は一般企業のマーケティングと変わりません。

*gooddoとは
誰でも簡単にNPOやNGOを無料で支援することができる社会貢献プラットフォーム http://gooddo.jp/

ターゲットをネコ好きに絞った個人支援者拡大のためのキャンペーン動画とは

------紙媒体とWebは、どういうバランスで配分されているのですか。

紙媒体とWebのプロモーションをどういうバランスで配分していくかは、基本的に、それぞれの媒体のこれまでの効率を積み上げていく感じですね。

------TVCM等を制作をされていたということは、動画制作のご経験は豊富なのですか。

WWFジャパン全体としては、TVCMをはじめとして他でもいくつも動画を制作しています。ただ、私の職務である新規に支援者を増やすという部分について動画を制作するのは、今回が初めてです。

------動画を作成しようと思ったきっかけは何ですか。

gooddoさんの引き合いがあったことが一番大きかったです。動画制作のコストが見えなかったので、ある程度低価格で制作でき、クオリティも確保できるというViibarさんとの引き合せは、とてもありがたかったです。

------動画の活用は、個人会員獲得につなげることが一番の目的なのでしょうか。

はい。環境保全を訴える動画については、これまで数多く作成していたのですが、支援者を増やすといったファンドレイジングのための動画というのは、初めての取り組みなので、支援者拡大につなげるという目的を非常に意識して、クリエイターさんとディスカッションしながら動画を作りました。

------支援をしてくださる可能性がある方々とおっしゃっている、動画のターゲットはどこで、どういった人をイメージされているのでしょうか。

昨年度のキャンペーンについていうと、猫が好きな方をターゲットに設定しました。これまでのプロモーションの傾向分析や、他国のWWFにおける活動の傾向から、猫が好きな人というのは、トラ、ヒョウ、ウンピョウやアムールヒョウといったネコ科の動物全般が好きだということがデータからも分かっています。

Facebookの投稿などを見ていて実感されている方も多いと思うのですが、ネコ好きの方々は、トラやライオン、ヒョウといったネコ科動物にも「かわいい」といったリアクションや興味を示すことが多い。ネコ好きの方々は、ネコ科の野生動物が好きなだけでなく、その動物が危機であるということをお知らせすると、支援をくださる傾向も非常に高いということをデータが示唆しています。

現在世界には37種の大小さまざまなネコ科の動物たちが生息しており、そのうち17種が絶滅危惧種に指定されています。ロシアの最東端にあるアムール地方には、アムールヒョウというネコ科の絶滅危惧種が生息していますが、WWFジャパンは、このアムールヒョウの保護をWWFロシアと一緒に取り組んでいます。

その活動によってもともと30頭しか残っていなかったアムールヒョウが、今は80頭に増えました。とはいえ、80頭という個体数を小学校の学級に置き換えたら、たったの2クラス分でしかないわけです。

このように、ネコ科動物が危機的状況に陥っていることは紛れもない事実なので、ネコ科動物を守る活動を通してWWFを支援してくださいというメッセージを、猫が好きな人をターゲットにして届けるというキャンペーンは、効果的であろうということが予測されました。

------そうしたキャンペーン動画を制作する上で重要視された事柄はありますか。

そうですね。これはバランスの問題なのですが、ネコ科の動物ばかりにフォーカスした内容にはならないよう、クリエイターさんに強くお願いしました。ネコ科動物を守ることは環境保全の上で非常に重要なことなのですが、冒頭で説明させていただいた通り、私たちはネコ科の動物だけを守る団体ではないので、動画という視覚的にエモーショナルなツールを使ってキャンペーンをはることで、誤解や認識の違いといったものが生まれることを危惧していたからです。

ディレクションの際にも、危機をエモーショナルに伝えてほしいのだけけれども、ただ単に、ネコ科の動物を守るというだけでなく、日本社会における消費の在り方を変えていくということや、温暖化を防止するといったことも、メッセージに盛り込んでみながら制作しました。なので、動画の途中で森林伐採がネコ科動物を傷つけているということや、密猟が人間によって行われているというメッセージをポイントとして挿入しています。

ファンドレイジングで動画を活用するのは今回が初めてだったので、ネコ科の動物の保護団体という間違ったイメージが広まってしまうのではないかといったことを危惧する意見も少なくありませんでした。しかし、出来上がった動画を見てもらってからは、バランスが取れていて非常にいい内容だという評価をもらうことができました。

後編に続く

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