集英社宣伝部は、ライトノベルの新レーベルの立ち上げにあたってViibarを活用した動画マーケティングに挑戦。今までにない新しい切り口による動画を制作し、Twitterや店頭などで配信することで、ファンや作家、書店から熱烈な反応を得ることに成功し、作品の認知を高めた。この成功を基に、今後他のコンテンツの宣伝においても動画活用を広げようとしている。

プロフィール

  • 濱岡諭史氏1988年生まれ。2008年株式会社集英社に入社。宣伝部書籍宣伝課に配属され文芸単行本やライトノベルレーベル創刊の宣伝施策に従事。2016年6月より雑誌宣伝課所属。週刊少年ジャンプの宣伝を担当している。

出版業界におけるマーケティング事情とデジタル化

—-濱岡様の業務内容をお聞かせください。

集英社宣伝部が行う活動は、基本的に書籍・コミックス・雑誌といった弊社の発行している諸々のコンテンツを、より多く人に知ってもらい、販促につながる施策を練ることです。書籍の場合は、新聞広告などが販促につながるケースが多いので、そういった手段を主軸に、どういった広告が読者に刺さるネームやビジュアルなのかを考えながら個々の作品の宣伝を行います。

実は書籍を宣伝する我々の部署は、他業種とは宣伝の考え方が違っており、何年もかけてある商材に関するイメージを作り上げる、といったやり方は実施していません。基本的には、作家が生み出した魅力的な作品を、宣伝部が観点を変えて掘り下げ、どの観点からのアプローチだと読者に刺さりやすいかというのを見極め、宣伝することが私たちの主な仕事です。従って、宣伝部という名前ですが、ブランディングよりも個別コンテンツのプロモーションがメインの業務になります。

私は現在、ジャンプ関連事業の宣伝を担当しているのですが、来年『ONE PIECE』が連載20周年、再来年で週刊少年ジャンプが創刊50周年になります。ですので、ジャンプ全体のロードマップを作って、この時期にどういう施策をやるかという計画を練っています。

—-集英社では、どういったメディアを活用してプロモーションされているのでしょうか。

今のところ、広告に関しては基本新聞とデジタルが中心です。また弊社自体が、様々な雑誌を制作している媒体社なので、自社の雑誌にタイアップ記事と言う形で広告を出したりもしています。集英社文庫のナツイチキャンペーンや、本当に大きな作品を出版する際には、駅貼り広告などもやります。企画次第で変わることが多いです。

—-デジタル領域に関しては、会社全体でどういった施策を練られているのですか?

社内でも様々な意見がありますが、業界全体の流れを見ていると、デジタルと紙は共存するだろうという考えが優勢になってきています。そういった流れの中で、弊社もデジタルでの影響力を強くするために専門の部署を立ち上げていますし、その他諸々の施策を試みています。

ただ、電子書籍などをはじめとしたデジタルへの移行というのは、日本の場合、若干システム的に難しい問題が存在しています。特に、日本語で書かれた小説などの書籍に関しては、文字を縦組みにする必要があります。この調整が思った以上に大変でネックとなっているのです。

もともとプログラミング自体、横書きが基本ですから、縦組みにする場合は、それを縦に直すという手間やコストが発生します。こうした面を考えると、結局やっていることが紙の出版におけるワークフローと大差なかったりします。さすがに3次商品なので紙より手間やコストは抑えられてはいますが、新しいイノベーションが生まれるといった部分まで届いてないというのが私個人の正直な感想です。

一方漫画に関しては、ウェブコミックサイトの「となりのヤングジャンプ」や、スマートフォンアプリの「ジャンプ+」でウェブコミックのラインナップを徐々に増やすなど、電子書籍化が普及しつつあると感じます。集英社でのウェブコミック一番の成功例が「ワンパンマン」という作品になると思うのですが、この作品は現在、1000万部を突破しており、こうした成功例を上手く活用して、ウェブコミックから新しいデジタルコンテンツを作っていけないだろうかと模索しています。

shueisha

ライトノベルの新レーベルの立ち上げ時、マーケティング戦略の一環で動画広告を活用

—-Viibarでは、鈴木大輔 氏(イラスト:肋兵器 氏)のライトノベル「文句の付けようがないラブコメ」の動画を制作させていただきましたが、いろいろな施策がある中で動画制作をやろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

今回の動画制作に関しては、ダッシュエックス文庫というライトノベルレーベル創刊の際、宣伝施策の一環として検討したものになります。実は、ライトノベル市場も、ライト文芸を含めた大きな括りでは拡大しているのですが、いわゆる「ラノベ」といわれる文庫型の書籍の中に、アニメや漫画の挿絵が入っているものに関しては縮小傾向にあります。本年度は、少し上向きになるかなという動向予測はあるのですが、いずれにせよ2015年度の時点でライトノベル市場が212億円と言われていますので、小さな市場であることには変わりありません。

また、ライトノベルの電子書籍に関しては、すでに角川系列のライトノベルレーベルが約8割のシェアを占めているという状態で、新規レーベルを立ち上げること自体、背水の陣で臨まなければいけない状況からのスタートでした。加えて、ラノベはそれ自体でベストセラーになることは少なく、アニメなどのメディアミックス企画を通してベストセラーになるという流れが基本的に出来上がっているので、ラノベの原作のみで新しい読者を獲得するのはとても難しい状況です。

したがって、この新レーベルをユーザーにどうやって認知してもらうか考えた際、アニメ化して10代後半の読者たちにアピールしていくとうラインに加えて、原作に関してはメインターゲットを20代後半〜30代前半と想定して広告を打つというラインの2本立てでやっていこうという話になりました。

その中で、新レーベル普及に関する宣伝をどうすべきかという話になったとき、王道のアプローチではダメだろうという結論に至りました。弊社の新レーベルは、市場のマッピングでいうと、コンテンツが目指すべき方向は王道でも、角川さんの牙城を崩していく挑戦者の立場です。ですから、創刊当初はニッチャーからスタートする、といったスタンスで臨む必要がありそれが宣伝部署内のコンセンサスでした。

そして、その認識で宣伝を行うには、とにかく面白いことをやることが重要だということになったのです。また、その面白さも、王道の面白さではなくて、ちょっとずれた感覚の面白さを常にやり続けるというのが、大事なことだと感じていました。読者に「あの出版社って面白いことやっているよね」と思われたいといった感じです。

例えば、これは創刊前ですが、プレゼント懸賞の企画も、通常のプレゼントではなく、直筆サイン入りの電子レンジをプレゼントするとか(笑)。その他、様々なメディアやSNSを使って、少しずらした面白さがある宣伝を実施していました。
このように、他社でやっていないことをとにかくやりたいということで、全体的に少し尖った内容で宣伝施策を行うというのが、創刊のときからの決め事というか、私の中で考えていたスタンスです。

書店だったら書店もメディアと考えて、アニメ専門店「アニメイト」さんをジャックするといったことも実施しました。また、アニメ化が決まった時は、普通のCMを流すのではなくて、声優さんに30秒でできるだけ早口で喋ってもらい、330文字程度で作品の魅力について語ってもらうといった一工夫を心がけました。これはTVCMと同内容のものをウェブ動画でも流し、動画再生数が50万を突破した成功例です。

Viibarさんと行った動画制作も、こうしたラノベ新レーベルにおける宣伝施策の一環でした。ラノベの原作段階なのに、やたら高クオリティな動画を作るという命題のもとで制作を進めたことで、結果として遊び心に溢れた動画広告になったと思います。また動画を使って、見込み客や潜在顧客に対してのアプローチを段階的に行い、徐々に購入意識を育てるといったリーダーナーチャリングのような施策にも成功したと思います。潜在顧客となるのは、他社のライトノベルユーザーなので、そういった顧客をこちらに引っ張ってくるときに、動画は非常に役立ったと思います。

©鈴木大輔 イラスト・肋兵器

集英社様のyoutubeへのリンク

—-Viibarを知っていただいたきっかけについて教えて下さい。

先輩社員からViibarさんを教えてもらいました。でもその前からViibarという企業名については、マーケティングのニュースサイトなどでよく取り上げられていましたので、もともと知っていました。実際の業務内容を詳しく知ったのは今回がはじめてです。

かなりタイトなスケジュールで制作をお願いしたわけですが、既存の制作会社だと、従来通りの発想しか出てこないと考えていたので、当初から新レーベルでの動画広告に関しては、新規に動画制作会社を探しており、企画自体はオファーする2ヶ月前から考えていました。実は、お願いする予定だった企業さんはほぼ決まっていたのですが、直前に見積もりやスケジュール調整の関係で、断られてしまったという経緯がありました。

発売日から逆算して、すでに通常の動画制作に必要な日数は過ぎていましたので、そこから新規にお願いする企業を探すのは難しく、本当に参ってしまいどうしようか悩んでいたのです。ちょうどその時にViibarさんの存在を教えてもらって、ご迷惑おかけするのは重々承知のうえでオファーさせていただきました。

その後、発売日まで1ヶ月をきっているスケジュールの中、動画で流す歌の制作まで依頼させていただきました。振り返れば、動画と楽曲の制作を、タイトなスケジュールの中で同時に勧めるなんて、かなりリスキーだったと思います。

にもかかわらず、クリエイターの方々が見事にイメージどおりのものを制作してくださって、本当にありがたかったですね。動画を見てもらえればわかると思うのですが、本当にすごいクオリティですよね。私を含め、社内でも皆驚いていました。

—-印象的なエピソードなどはありますか?

全てが印象的でしたね。リアルタイムで、チャットでやり取りしたり、オンラインのツールに書き込んで修正指示を出したりといったことが非常に便利でした。以前からこういうことは出来るのだろうなという漠然としたイメージはあったのですが、本当にできるのだと実感しました。

また、プロの方々に対してこういう表現は失礼になるかもしれませんが、本当にクリエイティビティや発想力のあるクリエイターが沢山在籍されていて、常にそこに存在するというシステム自体が、すごいことだと思いました。歌と動画制作を一緒に進めた訳ですが、今回お世話になったクリエイターお2人とも非常に良かった。

動画のクリエイターは、褒め言葉ですけど、ネットスラングでいうところの「設定厨」ですよね(笑)。原作の世界観を理解し、設定をとことん作り込んでくださった。動画でこういう世界観を作りたいですと口頭で指示して、あそこまで作り込んでもらえる方って、なかなかいないですよね。今回は、絵素材が豊富にあったということもあるのでしょうが、その素材を使って100%以上で返してくれるクリエイターさんは、ありがたいなと思いましたね。音楽も動画の世界観とぴったりはまっていてよかったです。

基本は、映像か音楽のどちらかが先にあって、それに擦り合わせていくと思うのですが、一発で見事にマッチしていました。お二人とも事前に作品を読み込んでくださっており、「神鳴沢セカイ」という物語の中心となるキャラクターのファンになってくださったと伺っています。そのことが、タイトなスケジュールの中でも素晴らしいクオリティを実現している理由なのだと思います。

※本事例は、2016年7月に実施したインタビューに基づいて作成しました。
※本事例は掲載時点のものです。

後編に続く

Pocket