1.縦型動画流行の背景

インターネットを利用する端末がパソコンからスマートフォンやタブレットにシフトする中で、モバイルフレンドリーなユーザーインターフェイスを持ったコンテンツを提供することの重要性が高まっている。そうした流れの中で注目を集めているのが縦型動画(Vertical Videos)である。縦型動画の背景は、LTE(次世代高速携帯通信規格)が急速に普及し、データ通信量が大きい動画をスマートフォンにおいても手軽に視聴できる環境が整備されたためだと考えられる。アメリカのティーンエイジャーに大人気のメッセンジャーアプリの「Snapchat」や、ライブストリーミングアプリの「Periscope」「Meerkat」などが縦型動画のフォーマットを採用し、FacebookやYoutubeなども縦型に最適化された動画に対応しはじめているように、動画視聴環境の変化に対応して縦長サイズの動画を採用・対応するSNSやアプリが増えており、今後のネットにおける動画視聴フォーマットは縦型が主流になりつつあると予想されている。

これまでは、動画のアスペクト比はTVのハイビジョンと同じ16:9の横型動画(Horizontal Videos)が主流だったので、スマートフォンで動画を見る場合は、視聴のたびに画面を横に倒す必要があった。しかし、縦型動画は縦長なスマホの画面に最適化されており、モバイルファーストな動画視聴方法が優先される状況が生まれつつある。加えて、縦型動画の一種と考えられるアスペクト比が1:1の正方形動画(スクエア動画:Square Videos)も同様に注目を集めている。こうした動向は、縦型動画が近年ポスターの代わりに街角を賑わすようになったデジタルサイネージ広告と親和性が高いということも関係していると考えられる。

(1)縦型動画を採用しているサービス

Snapchat

Snapchat(スナップチャット)は「非永久的な写真をリアルタイムで送ることが可能なサービスを」というコンセプトのもと、スタンフォード大学在学中だったエバン・スピーゲル氏とボビー・マーフィー氏によって共同開発されたメッセージアプリである。

2011年9月にローンチされたこのアプリは、デイリーアクティブユーザー数(DAU)が1億5000万人を突破したと発表され(2016年6月2日時点)、1日の動画視聴再生数については100億回を超えた(2016年4月末時点)と報道されている。アメリカでは、10~20代の若年層に人気があり、友人同士のコミュニケーションにおいて必須のツールとして浸透している。ユーザーの37%が18~24歳であるといったデータもあり、若年層をターゲットとする多くの企業がプロモーションに活用をしている。

Snapchatの縦型動画は、従来の横型動画と比較して約9倍のCompletion Rate(完全視聴率)を獲得したというデータも報告されており、縦型動画の導入を促進する要因となっている。2015年の売上高は5000万ドルで、2016年は2億ドルの売上を計画していると伝えられている。さらに、Snapchatはイギリスの日刊紙Daily Mail、大手広告代理店WPPと共同で縦型動画制作専門のクリエイティブ・スタジオを開設し、現在の縦型動画ブームを牽引し続けている。

動画や写真にフィルターを加えたり、テキストを追加したり、スタンプを入れたり画像や動画を加工できるといった機能は他のアプリにも存在するが、Snapchat最大の特徴は、受信者が閲覧後、メッセージが自動的に消滅する点にある。こうした機能から、従来のSNSのように他者の評価やリアクションを気にせずに、写真や動画をシェアすることができるという気軽さが、リアルな会話に近いので、若者に人気を博しているのである。

最近ではリピート機能によって最大2回、同じメッセージを確認することが可能になり、My Storyという機能にメッセージを追加することによって、24時間だけ自分の撮った動画や写真を友達限定で見せる機能も加わった。さらに、今年1月には、アプリ内にDiscoverという縦型動画のコンテンツチャンネルが開設され、パブリッシャーには、CNN、National Geographic、Buzzfeed、MTV、Daily Mail、CNN、Peopleなどが名を連ねている。

Discover のMTV

参照:
Snapchat Passes Twitter in Daily Usage
Snapchat User `Stories' Fuel 10 Billion Daily Video Views
It’s time to take vertical video seriously
Snapchat Revenue Could Hit $50 Million This Year -- But It Still Needs a CFO

periscope

Periscope(ペリスコープ)は、Twitter社によって約1億ドルで買収されたライブストリーミングアプリ。縦型動画を採用し、視聴者数や配信時間に制限がないこと、配信後も24時間はコメント込みでアーカイブを残せることができることなどが特徴である。また、特別な機材を使うことなく、スマートフォンのみで世界中の人にライブ配信することが可能で、視聴者もリアルタイムにコメントを送信したり、画面タップでハートなどを飛ばして配信主と会話したりすることができる。

2015年8月には、アカウント数が1000万を突破し、1日当たりの累計視聴時間は40年分以上になった(2015年8月時点)と伝えられる急成長の動画サービスである。最近では、YouTuberのように独自のコンテンツを作成し人気となっているインフルエンサーも出現している。

参照:
ライブストリーミングのPeriscope、登録ユーザー1000万人突破。1日の視聴時間は40年

Meerkat

Meerkat(ミーアキャット)は、誰でも簡単にリアルタイムで動画を配信できるライブストリーミングアプリ。同時に5,000人がライブ動画を視聴可能である。2015年3月にアメリカで開催されたサウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)というイベントのインタラクティブ部門で一躍話題となり、ユーザー数を飛躍的に伸ばした。南アフリカ・ボツワナ南部、ナミビアなどの半砂漠地帯に生息するマングース科の動物ミーアキャットが、アプリ名の由来である。アプリをダウンロードして、ツイッターの認証でログイン後、配信のボタンを押すだけで、すぐにハイクオリティの動画をリアルタイム配信できるというシンプルな操作もユーザーから好評で、ライブストリーミングを見逃さないように、配信がスタートするとスマートフォン上で通知が届いたり、自動的にツイッターで通知が投稿されたりする機能も搭載されている。

C CHANNEL

C CHANNEL(シー・チャンネル)は、日本初の縦型動画メディアサービスである。これはLINEの元代表取締役社長CEOである森川亮氏が立ち上げたF1層向けの無料動画マガジンで、月間動画再生回数は1億回以上を記録している(2016年3月末時点)。クリッパーと呼ばれる世界中のタレントやモデルなどが縦型動画を撮影し、ファッション、ヘアアレンジ、メイク、ヘルス、フード、ライフスタイルといった女性が関心の高いジャンルを中心にコンテンツを配信している。特に、20代女性に強い支持を集めており、現在は一般ユーザーによる動画投稿もスタートしている。また、縦型動画広告サービスも提供されており、株式会社ローソンをはじめとして、すでに多くの企業がプロモーションで活用している。

ヘアアレンジ動画

株式会社ローソンの広告動画


参照:
C CHANNELの月間動画再生数が1億を突破! 国内最大規模の動画の分散型メディアサービスに

既存のメディアの対応

YouTubeは、基本的に16:9のプレイヤーを採用しているため、以前は縦型動画として制作されたコンテンツを視聴すると動画の左右に黒い帯が表示されていた。しかし、現在はAndroid、iOS両方のアプリにおいてフルスクリーン表示をクリックすることで縦型動画に対応する機能を搭載している。
Vimeoも基本は16:9のプレイヤーを採用しているが、埋め込みコードを生成する際に、縦型動画向けのアスペクト比をデフォルトで選択することや、Vimeoプラットフォーム上での全画面再生も画面を回転させることなく、縦長のまま再生することも可能になっている。
Facebook は、近年モバイルからのアクセスが増加しており、モバイル広告の占める割合も7割を超えている。こうした状況に対応して、タップすることで縦型動画を全画面表示が可能になった。また、Facebook Live というライブストリーミングの提供を開始し、そこでも縦型動画のフォーマットに対応している。
LINEも縦型に対応したリッチビデオメッセージという動画配信サービスの開始を予定していると発表している。

(2)正方形動画を採用しているサービス

TastyとTastemade

BuzzFeedが配信しているレシピ動画Tastyは、2015年10月の単月で12億ビューも再生されたと報道され大変注目を集めている。これに対抗して米・カリフォルニア州サンタモニカ発の世界最大級の食に関するビデオマガジンTastemadeも、自社制作の短いレシピ動画を配信し同様に高い再生数を獲得している。これらのレシピ動画には正方形動画が採用されているのが特徴で、本格的なレシピ動画を短時間の早送り映像で紹介するというスタイルをとっている。この2つのサービスは、ともにTasty Japan、Tastemade Japanという日本向けにカスタマイズされたレシピ動画の配信もスタートしている。また、サイバーエージェントが運営するペコリ(pecolly)をはじめとして、こうしたスクエアスタイルのレシピ動画配信に参入する日本企業も増えている。

縦型動画がスマホ画面のほぼ全てを占有するのに対し、正方形動画はスマホ画面の枠を意識しながらも、動画以外の情報を同時に発信できるというメリットがある。また、スマホでは音を再生しないで動画視聴されるケースも多く、字幕を効果的に使えるのも正方形動画の特徴である。加えて、クリエイティブ表現が従来の横長動画に近く、横長と縦長の両方の画面に対応できる点、Instagramなどの正方形画面を採用しているメディアにもそのまま用いることができる点など、その汎用性は高く動画制作全体の制作コストを抑えられることも流行している要因の一つであると考えられる。

さらに、こうしたレシピ動画の流行によって、新たな動画プラットフォームとしてFacebookの存在感が増していると考えられる。

成功事例から縦型動画を理解する

縦型動画の性質や枠組みを上手く利用したクリエイティブの成功事例をいくつか紹介する。

(1) 日本での成功事例

lyrical school

日本で縦型動画の成功事例は、六人組のガールズHIP-HOPグループlyrical school(通称リリスク)がリリースした新曲「RUN and RUN」のミュージックビデオが話題になったことが記憶にあたらしい。このMVは、スマホのディスプレイをフル活用し、まるで自分のスマートフォンをジャックされたような感覚になるクリエイティブで注目を集め、公開されてから1ヵ月で動画再生回数が150万回以上を超えている(2016年5月17日時点)

Yahoo! Japan

Yahoo! Japanは「スマートフォンとライフスタイルの変化」という携帯電話の登場から、現在のスマートフォンの普及までの30年の歴史を縦型動画に最適化されたアニメーション映像によって紹介したプロモーション動画をVimeoで配信し話題となった。

(2) 海外での成功事例

Audi

Audiは、自動車レース「ル・マン」に関するキャンペーンにおいて、縦型動画を用いることで、モバイル広告サービスの分析をリードするCeltra社における自動車部門のベンチマークよりも80%高いCompletion Rate(完全視聴率)を達成した。

Clarins

フランスの化粧品メーカーClarinsのDouble Serumという人気商品に関するプロモーション動画。縦型のボトルや、雫が垂れる様子などを縦長のフレームの中で上手く表現し、高品質でラグジュアリーな商品イメージを伝えることに成功している。

The Washington Post

The Washington Post紙は、モバイルファーストなコンテンツ戦略を展開していくことを宣言し、2016年2月29日、同紙においてアメリカの予備選挙や党員集会が多く行われる日であるスーパー・チューズデーの重要性を訴えるキャンペーンを縦型動画によって配信した。

このように縦型動画は、ネット広告において重要な位置を占めるようになっており、2016年のトレンド予測において最も注目されるトピックの一つになっているのである。

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